動物に関わる際に必ず知っておかなければならない人畜共通感染症について、感染元になり得る動物や感染経路、症状、対策などを解説します。
人畜共通感染症とは
人畜共通感染症とは、「同一の病原体により、ヒトとヒト以外の脊椎動物の双方が罹患(りかん)する感染症」のことで、人から動物へ感染したり、動物から人へ感染したりする病気・感染症のことを示します。
ニュースや予防注射などでよく知られている、エボラウイルスや鳥インフルエンザ、日本脳炎なども人畜共通感染症の1つで、全世界には200種類以上も存在しています。
中には、動物に感染した場合は軽症で済むにもかかわらず、人間に感染した場合に重症になってしまうものもあり、またその逆の特徴を持つものも存在します。

感染経路(主な2種類)
人畜共通感染症に感染する原因は様々で、主な感染源は大きく2つに分けられます。
1. 経口感染・経皮感染
- 人畜共通感染症に感染している動物の肉、魚介類や死体、糞尿を介して感染。
- 皮膚や粘膜、水、食べ物を通じて病原体が体内に侵入。
- 食中毒、寄生虫症、ダニやノミなどの節足動物による感染も含まれる。
2. 飛沫感染・塵埃感染
- 乾燥した鳥の糞などが細かい粉状になり、それが舞い上がった空気を吸い込むことで感染。
命に関わる人畜共通感染症“狂犬病”
日本は他国に比べて衛生的な環境が整っており、不衛生な環境が原因となる人畜共通感染症は比較的少ない状況にあります。
その一方で
人や物資の移動が国内外ともに容易になったことにより、現在日本では確認されていない人畜共通感染症を事前に予防することも大変重要です。
現在国内には重篤な人畜共通感染症は蔓延していませんが、国外には命に関わる人畜共通感染症も存在します。
その一例が、ウイルス性疾患である狂犬病です。
狂犬病の感染メカニズム
狂犬病とは、狂犬病ウイルスに感染した犬や猫などの動物に噛まれることによって、その噛み傷から感染し、潜伏期間を経て 身体を蝕み、人や動物を死に至らしめます。
100パーセントとも言われるその致死率や、人にとって大変身近な犬や猫から感染するということ、家庭で飼育するペットの犬にも狂犬病の予防注射が義務付けられていることから、多くの人に知られる人畜共通感染症とも言えるでしょう。
実際に日本国内では1958年から今まで狂犬病の発生は確認されていませんが、日本国外ではまだ広く蔓延しており、アジアやアフリカを中心に年間数万人が狂犬病によって命を落としています。

ただし、狂犬病は犬に噛まれたら必ず感染する病気ではなく、人を噛んだその犬が、狂犬病ウイルスに感染しているか否かを、まず検査する必要があります。
もしも狂犬病ウイルスに感染した犬に噛まれた場合にも、症状が出る前(発症前)に数回に分けてワクチン注射を行う事で症状を抑えることも可能です。
海外での注意点
- 野良犬や野良猫には むやみに触れない。
- 地域によっては、犬や猫ではなくコウモリやアライグマが狂犬病ウイルスを持っていることもあるため、正しい知識を持って動物との距離を保つ。
生活の身近に潜む人畜共通感染症
日本国内で感染する可能性のある人畜共通感染症の主な感染原因は以下の3つに分類されます。
- 食材からの感染
- ダニやシラミ、ノミなどの節足動物による感染
- 動物によるひっかき傷・噛み傷・糞尿による感染
1. 食材からの感染
食材からの感染は、日本特有の生魚や生肉、生卵、内臓部分を食べる文化・習慣も関係しており、汚染された食肉を生食または加熱不十分の状態で摂取した場合や、本来食肉自体は感染していないものの、その腸管や内臓に存在していたウイルスが食肉を汚染してしまう場合などがあります。
代表的な感染症
- 腸管出血性大腸菌 О(オー)157
- サルモネラ症
- アニサキス症
- Q熱
2. ダニ・シラミ・ノミなどの節足動物による感染
寝具に潜むダニ・ノミに噛まれる場合や、ペットや家畜など身近な動物の表皮にいたダニ・ノミに噛まれてしまう場合、キャンプや山登りを行うために訪れた自然環境に生息していたダニ・ノミに噛まれる場合が考えられます。
代表的な感染症
- 疥癬(カイセン)
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- イヌ糸状虫症(蚊による感染)
3. 動物のひっかき傷・噛み傷・糞尿による感染
代表的な感染症
- 猫ひっかき症
- イヌネコ回虫症
- トキソプラズマ症
- エキノコックス症

ペットを飼育する際の注意点
- 糞尿処理後の手洗いを徹底。
- 食器を共有しないことで感染リスクを軽減。
- ペットを寝床に入れないなど適度な距離を保つ。
人畜共通感染症は、動物から人へだけでなく人から動物へ感染する場合もあるため、正しい知識を持ち適切な予防策を講じることが重要です。
狩猟時に感染する可能性のある人畜共通感染症
野生動物は臓器・筋肉・皮膚・体毛などに細菌や寄生虫を持っている可能性があるため、狩猟を行う際は、日常生活以上に人畜共通感染症に注意を払わなければいけません。
ここでは狩猟時の人畜共通感染症に感染経路を挙げ、具体的な対策を考えます。
1. 野生動物との直接接触による感染
野生動物に噛まれる・舐められる・糞尿や血や内臓に接触することによる感染です。
代表的な感染症
- 野兎病:ウサギなどの血液や内臓に触れることで感染
- レプトスピラ病:細菌のいる水場やげっ歯類の尿に触れることで感染
- Q熱:乾燥した糞や毛を吸い込むことで感染
【対策】狩猟中は血液や唾液、内臓、糞尿に極力触れないようにしたり、狩猟後は衣類や道具をすぐに清潔にすることで、ある程度防ぐことが可能です。
2. ダニやノミを介する感染
野生動物に付着しているダニやノミを介する感染することがあります。
代表的な感染症
- ライム病:野生動物のダニに刺されることで感染
- 日本紅斑病:ダニを介して感染
【対策】狩猟時に長袖・長ズボン・手袋を着用することである程度防ぐことが出来ます。高温多湿の夏場には、長袖長ズボンの装備が辛く感じることもあるかもしれませんが、不快感を減少させる吸水速乾素材や風を通しやすいメッシュ素材を積極的に選ぶと良いでしょう。
3. ジビエの摂取による感染
感染した野生鳥獣の生肉を食べることで、病原体に感染する可能性があります。
代表的な感染症
- E型肝炎:感染した動物の生肉を食べることで感染
- トキソプラズマ症:生肉を介して感染
もし体調が悪くなったら
もし万が一、狩猟後に発熱や咳、体調不良などの症状が出た場合は、必ずかかりつけの医師に診察してもらい、「狩猟をしている」、「野生動物との接触があった」という状況を伝えましょう。
また、免疫力の弱まっている時に発症しやすい人畜共通感染症もあるため、狩猟時の判断力低下による事故を防止するという意味合い以外でも、体調が優れない日は狩猟に出ないことが大切です。