獣害被害を予防するためには、単発的な捕獲だけでなく、生態調査や追跡調査などの長期的・計画的な被害防止対策が必要不可欠です。その理由と方法を解説します。
獣害被害が起こる原因
獣害とは、野生動物(獣)の行動によって人間が被る害のことを指し、被害の状況によって大きく以下の4つに分類されます。
4つの害獣被害
- 農作物が荒らされてしまう農業被害
- 野生動物が屋根裏や軒下に棲みついて家屋に被害が出てしまう家屋被害
- 人間が野生動物に噛まれたり引っ掻かれたりする人的被害
- 林業へのダメージや生態系バランスの崩壊などの森林・生態系被害
これら4つの被害は一見全く別種の被害に見えるのですが、実はすべてに共通した原因があります。それは、“野生動物と人間が棲み分けをできないこと”です。
棲み分けについて
棲み分けとは、“生活様式のほぼ等しい異種の生物群が、生活空間や生活時間・時期を分け、競争を回避しながら共存する現象”を示す生物学用語で、広い意味では“共生”という言葉で表すこともできます。
従来は、田畑や里山が野生動物の生息地域と人間の居住地域を隔てる境界線・緩衝帯の役割を果たしていたため、山林で生活する野生動物が餌を求めて田畑や里山まで出てきたとしても、管理された田畑や人々の賑やかさから人間の気配を感じ、本来の生息地である山林に戻っていくという一連の流れが確立し、棲み分けが出来ていました。

しかし近年 、以下のような原因で 人々の野生動物に向き合う認識が大きく変化し、この棲み分けのバランスが崩れています。
棲み分けのバランスが崩れている原因
- 農業の機械化
- 農業従事者の高齢化
- 生態系の変化
- 人口の都市流出
- 狩猟者の減少など

環境省でも、この棲み分けを“ゾーニング”と呼んで害獣対策のための重要課題としており、小さな集落や県、市町村単位ゾーニングを分け、それぞれの役割を設けて獣害被害を減らそうとしています。
なぜ長期的・計画的な被害防止策が必要なのか
それでは、獣害被害の原因となる“棲み分け”をするためには、どのような対策が必要なのでしょうか。
それは、害獣(野生動物)が田畑や民家に来ない“仕組み”を作ることです。
野生動物はとても賢く、生きていくために様々な知恵を持っています。本能的に身に付いているものから経験によって学習するものまで、生き抜くため子孫を残すために、考えながら生きているのです。
一度「あの畑に行けば餌が食べられる」と学習すれば、生きるために柵を乗り越えてでも遠回りしてでも畑にやってくる可能性もあるのです。
こうならないためにも、私たち人間は動物の習性や考えを先回りして対策を練る必要があります。
そのためには
基本的に、調査は数カ月~数年にわたり、そこで出てきたデータを題材に、獣害対策や野生動物の生態に詳しい専門家や行政職員、猟友会、実際に被害を受けている農業従事者の方々が集まって長期計画を練っていきます。
一見効率が悪そうに見える長期的な計画も、年々増加している野生動物を、数少ない狩猟者で駆除・捕獲をするよりはるかに効率的で、知恵を持った野生動物と人間とのいたちごっこにならないための戦略なのです。

平成29年の農林水産省の調査によると、平成27年度の農作物被害総額176億円のうち、シカ・イノシシ・サルの3種による被害が半分以上を占めています。
その一方で、狩猟免許保持者の年齢層は上がっているため、現代では特に、狩猟行為・狩猟者だけに頼らない効率的で計画的な対策が必要不可欠なのです。
群れの習性を把握し、計画を練る
長期的・計画的な被害防止策を練るにあたって大切なことは、獣害被害を与える群れの習性を把握することです。
被害を与える害獣がイノシシであるか、シカであるか、サルであるかによって、活動時間や侵入経路、好む作物などの習性は大きく異なります。
害獣の調査&対策の手順
- 被害状況の把握
- 害獣による被害の具体的な内容を調査
- 定点カメラの設置、足跡や糞の観察で動物種を特定
- 群れの詳細調査
- 動物種が特定できたら、群れの数・構成・習性を分析
- 群れの規模を把握するために、獣道や水場にカメラを設置
活用できるカメラ : 定点カメラ、赤外線カメラ、センサーカメラなど
- 追跡・監視方法
- マイクロチップを活用 : 一旦捕獲した動物に埋め込み、再度放つことでリアルタイムで観察・追跡
- ドローンによる監視 : 最新技術のドローン+赤外線カメラで上空から群れを追跡
こうして集まったデータから群れの特徴をつかみ、その群れの活動や特徴に合った防止策や仕掛けを組んでいくのです。