湯に浸かる猿

害獣の原因と主な対策、害獣の特徴

サル被害の特徴とは?実際の被害事例と有効な対策

サル(ニホンザル)の生態について解説し、獣害被害の特徴と有効な対策を実例と交えて紹介します。

ニホンザルの生態

ニホンザルとは日本に生息する唯一のサルで、ヒトを除いた霊長類の中でも最も北に生息する動物種です。

霊長類のほとんどは熱帯地域から温帯地域に生息しているため、積雪地域に生息するサルは世界的にも大変珍しいと言えます。生息地は日本国内の広葉樹林で、北海道と沖縄を除く本州、四国、九州およびその周辺の島に生息しています。

鹿児島県屋久島にはニホンザルの亜種にあたるヤクシマザルが生息しており、ヤクシマザルと比較して、本州・四国・九州に生息するニホンザルの事をホンドザルと呼ぶこともあります。

ヤクシマの隣の種子島にもニホンザルが生息していましたが、1960年代に生息環境となる森が減少したために絶滅しました。

さらに近年では、千葉県や和歌山県などで外来種であるアカゲザルやタイワンザルとの交雑種も確認されており、遺伝子汚染が懸念されています。体長は50センチ〜70センチほどで、体重はオスが10〜18キロ、メスで8〜16キロほどになります。霊長類には珍しく顔や尻が赤いという特徴があり、秋から冬にかけた交尾期になるとオスメス共に発情を迎え、顔と尻の赤みが増します。交尾期以外の時期でも顔と尻の赤みは役立っており、群れの識別に役立っていると言われています。

また、ニホンザルは雑食で、果実や木の実、種子、花、葉、樹皮などの植物を中心に、昆虫やカエル、トカゲ、鳥の卵、魚など動物性の物も食べます。

ほとんどのサルは数頭から数十頭の群れを作って集団で生活し、群れは複数のオスと複数のメス、その子ザルから成り立っています。野生下での寿命は20年前後で、通常は1回の出産で1頭の子を産み、11〜18ヶ月の授乳期間を経て生後5〜7年で性成熟します。

ニホンザルの頭数推移において最も大きな影響を及ぼしたのは、1947年の”狩猟鳥獣リストからのニホンザル除外”です。

1947年より前は、ニホンザルも現在のイノシシやシカと同じように狩猟鳥獣として登録され、狩猟対象になっていました。しかし、乱獲によって個体群が激減し、特に東北地方のニホンザルは一時期”絶滅のおそれのある地域個体群”として環境省レッドリストにも掲載されるほど危機的状況でした。

現在は、狩猟鳥獣リストから除外された効果もあって生息数は回復傾向にありますが、その一方で、農村の衰退や生息地の破壊によって農作物への獣害被害も発生しています。

サルによる獣害被害の特徴

サルが関わる獣害被害には、大きく農業被害と人的被害の2つがあります。

1つ目は農業被害です。

農林水産省の「野生鳥獣による農作物被害状況の推移」によると、平成27年度の鳥獣別被害金額は、60億円のシカ、51億円のイノシシに次いて、サルは11億円相当の被害を出しています。

サルは農作物の中でも特に果実を好むため、被害金額の42パーセントにあたる6.5億円が果樹被害で、その次に野菜が5.3億円(34パーセント)、水稲が1.3億円(9パーセント)となっています。全国の中でも特に被害が大きいのは果樹生産県で、山口県では1億1100万円、三重県では1億900万円、長野県では9900万円のサル被害が報告されています。

ただし、近年は被害減少の傾向があり、平成27年に10億9100万円だった被害は、平成28年は10億3100万円、平成29年は9億300万円と徐々に減少してきています。過去10年間で最高被害額18億円にまで膨らんでいたサル被害は、専門家の協力と効果的な対策により徐々に減ってきていると言えるでしょう。

2つ目の人的被害については、サルが持つ高い学習能力が関係しています。

本来の野生サルであれば、人の姿を見ると遠くにいたとしてもすぐにその場から逃げるのですが、学習能力・記憶能力が高いがゆえに、一度民家付近で果樹や生ごみなどの食べ物にありついた体験をしてしまうと、「人の近くに行けば食べ物があるかもしれない」と学習してしまい、人や人家に馴れる個体が出てきます。そこで、人が近づいても逃げなくなることから始まり、その状況を放っておくと、追い払っても逃げない、人に向かって威嚇する、人家や倉庫に侵入する、など被害はどんどんエスカレートしていき、人的被害にも発展しやすくなってしまいます。

また、サルの特徴として、群に属するサル以外にも「ハナレザル」の存在があります。

ハナレザルは、生まれ育った群れを離れて独り立ちしたばかりの若いオスザルで、新たな居場所を求めて人家の近くや集落に入り込んでくることがあります。人的被害や人家侵入などの被害を与えるサルは、ハナレザルであることも多いため、群れではなく単独行動をしているからと言って安心せず、見かけた場合は地方自治体に連絡しましょう。大きな被害が出る前の初期の状態で、しっかりと対策することが重要です。

有効な対策とその実例

ここでは、サルに有効だと言われている対策を3つご紹介します。ただし、ニホンザルは狩猟鳥獣に含まれていないため、勝手に捕獲することは法律で禁止されています。人に馴れているサルは危害を与える可能性もあるため、実際にサル対策を行う際は必ず専門家の協力を得て行いましょう。

1つ目は農地への侵入防護柵の設置です。

農地で使用される侵入防護柵には様々な種類があります。しかし、どの柵を使用しても良いというわけではなく、例えシカやイノシシに有効な柵も、木に登ったり柵をよじ登ったりすることの出来るサルには効果がない場合があります。そのため、サル被害に対する侵入防護柵を設置する場合には、農地周辺の環境に応じて適切な柵を選ぶ必要があるのです。実際に、サル被害を撃退したある地域では、専門家の協力を得て通電式ワイヤーメッシュ柵を独自開発し、地域内の全ての農地にこの柵を設置しました。

この柵は、ワイヤーメッシュ部分に電気を通すだけでなく、その上部にも柵線を設置して通電させ、木から木へ飛び移る・柵をよじ登る等が可能なサルにも効果があるよう工夫されています。これを設置した結果、1〜3回ほど柵内に侵入されたケースがあったものの、ほとんどの農家の方が「効果があった」「被害が減った」と答え、実際の農作物被害が減少しただけでなく、集落への出没自体が減るなどの効果が出ています。

この地域でサル対策の効果が出たのは、サルの特性を理解した柵の設置はもちろん、地域全体で対策に取り組んだ点が効果に繋がっています。住民たちの協力を得ながら、「地域内でサルが何かを食べる」という行為を徹底的に排除することで、地域に立ち寄る目的を失ったサルはその地域に出没しなくなります。それでも寄ってくる場合は、出来るだけ大人数でサルを追い払うなど「この地域は人のエリアだ」という事を何度も繰り返しサルに伝えましょう。

2つ目は、継続的な群れの監視です。

サルの群れはそれぞれの行動圏を持っており、その中を巡回する形で餌を探しながら暮らしています。群れごとに行動圏や個体数、被害状況、加害度は異なるため、群れの特性を把握して「どの群れが被害を与えているのか?」「その群れは何頭で形成され、どのあたりに出没するのか?」という情報を追っていく必要があるのです。

その最も一般的な方法は、一度捕獲したサルに発信器を装着してもう一度野に放ち、その移動情報などを専用の受信機で取得する方法です。一見遠回な対策のように見えますが、こうすることで実際に被害が深刻になる前に効果的な対策を打つことができ、継続的な効果が得られるのです。

3つ目は、計画的な捕獲活動です。

通常サルは数頭から数十頭の群れでやって来るため、群れの頭数が多ければ多いほど、一度の被害が大きくなってしまいます。通常サイズの群れであれば、侵入防護柵や群れの監視、追い払いなどで対策できるものも、群れの頭数が多くなると一度の被害が大きい上に追い払いが大変になるため、群れの存続を前提に一部のサルを捕獲することがあります。

また、深刻な被害を与える非常に危険な群れで、周辺エリアに生息敵地がない場合は、群れ全体を捕獲する方法がとられることもあります。この他に、被害を与える特定の個体のみを捕獲するという方法もあります。

ただし捕獲活動は、監視によって群れの状況が把握できていて、追い払いの無効化や被害レベルが深刻な場合に行われる方法であるため、被害が現れ始める初期段階で行うというよりは、様々な手を尽くしながら対策を進めた段階で選択肢に入る対策であると言えるでしょう。

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