いのしし被害に遭遇

害獣の原因と主な対策、害獣の特徴

九州特有の生態系とは?特徴的な害獣と被害事例、主な対策など

九州に特徴的な生態系を紹介しながら、その動物たちが及ぼす被害事例や実際に行われている主な対策を紹介します。

九州地方特有の生態系

九州・沖縄地方は日本列島の南西に位置し、日本海、東シナ海、太平洋に囲まれた地域です。気候は本州と比べると少し温かく、夏から秋にかけて台風が直撃しやすいという特徴があります。また、南北約1200kmに及んで亜熱帯・暖温帯・冷温帯の森林が連なる地域でもあり、世界でも珍しい地域です。

生態系において最も特徴的なのは、クマがいないことと、対馬や奄美大島、沖縄本島、西表島など独特の生態系を持つ島がいくつも存在していることです。

1つ目のクマについて、本来は九州地方にも生息していたツキノワグマは、ごく最近までは環境省のレッドリストに「絶滅の恐れがある地域個体群」として掲載されていた。しかし、ここ数年明確な目撃情報や証拠がないため、2012年にすでに絶滅してしまったとして絶滅危惧のリストから除外されることとなりました。

その後も多くの専門家や写真家が九州で生存しているツキノワグマを探し続けていますが、あくまでクマである”可能性が高い”情報を得られただけで、確実な証拠は未だに得られていません。九州のクマについて興味深い点は、ここ数年で急激に生息頭数が減ったというわけではなく、昭和初期にはすでに九州に生息するツキノワグマはほとんどいなかったということです。

生息しているクマも、大分県・宮崎県・熊本県の県境にあたる祖母・傾山山系の一部地域にのみ生息する状況でした。環境省によると、実際に九州でツキノワグマが捕獲されたのは1957年と50年以上も前の記録が最新であるという興味深い事実もあります。

2つ目の独特の生態系を持つ島の存在については、対馬・奄美大島・沖縄本島・西表島・屋久島などが挙げられます。各島にはその島独特の固有種が存在しており、対馬にはツシマヤマネコやツシマテンが、奄美大島にはアマミノクロウサギやアマミヤマシギ、沖縄にはヤンバルクイナやマングース、ヤマガラ、ノグチゲラなどが生息しています。これらの種は、生息地が島内のみという限られた場所である上に、生息数がそこまで多くないため、現地の環境保護施設や保護センターなどでも積極的に保護活動が行われています。

最後に、獣害被害として多くの被害を出している九州地方のシカについてもご紹介します。

九州地方に限らず、日本列島では過去30年間にシカの生息頭数が大幅に増加しており、それに伴いシカの生息域も拡大し続けています。シカを取り巻くこの状況は、海を挟んだ九州地方でも同様で、特にシカの食害による生態系の変化は深刻です。実際にシカの食害によって絶滅した植物や破壊された森林もあり、それに伴う昆虫や鳥類の減少も見られます。

これらのシカ被害は林業を窮地に追い込む勢いで拡大しており、現場は緊急の対応を要しています。一方で、自然環境のバランス・植物へのダメージ以外に人への被害も懸念されています。本来は山奥や沢に生息するヒルが、シカに付着して田畑や里山に移動し、人がヒルに吸血されるという被害も確認されています。

獣害被害の特徴

農作物被害に限っては、九州地方ではイノシシ被害が最も多く、平成27年現在、被害額15億円にあたる全体の5割をイノシシ被害が占めています。

効果的な対策によって数年前と比べて徐々に減少はしているものの、今まで育ててきた農作物をこれから収穫しようという収穫期に鳥獣被害を受けることは、金額で計れる実被害だけでなく、農業を運営する意欲の低下や耕作放棄地の増加の原因にもなっています。

特に農業の高齢化が進む過疎地域や比較的規模の小さい市町村では、”農業”という人の食を支える大切な産業自体に大きな影響を与えているのです。

平成27年の九州地方における鳥獣別農作物被害金額では、イノシシが15億円、鳥類が6億3000万円、シカが4億5000万円、サルが1億3000万円となっています。ただし、都道府県によって害獣となる動物種の割合は異なり、長崎県では被害額の8割以上がイノシシ被害であることに対し、宮崎県や鹿児島県では被害額のうちイノシシが占める割合は4割程度で、2〜3割はシカによる被害であることが分かっています。

また、九州の中でも比較的人口や経済面の規模が大きい福岡県では、全体の3.5割ほどがカラスを含めた鳥類による被害であるなど、被害の内訳はその県の地域性が大きく関係していることが分かります。

九州の中南部では、シカの生息数の増大や生息域の拡大が進んでいます。

農林業被害に加え、森林の地面に生えている草木を食べてしまうことや、希少種の減少・絶滅などが進んでおり、森林の中の生態系が傾いていくことによって昆虫や鳥類の生息地も失われつつある深刻な状況です。九州・沖縄の森林については、九州森林管理局が一部の森林の管理をしており、シカによる被害状況の調査やシカの生息地・分布・行動の調査、植生保護柵の設置、効果的な捕獲等対策を行っています。

九州地方では、1978年から2003年の25年間でシカの生息数が1.5倍以上に拡大し、その頭数は九州全域で27万頭にも及びます。この数値は、適正値である3.6万頭の7倍以上の数値です。ただし、森林被害の原因はシカだけではなく、人による森林の手入れ不足や外来種の侵入、そして地球全体の温暖化など、シカだけではない様々な要因が絡み合って表面化しつつある被害でもあるのです。

主な獣害対策

このような特徴ある九州地方の生態系の中で、獣害被害の対策はどのように行っていけば良いのでしょうか。ここでは、実際に九州地方で実施されている獣害対策を2つ紹介します。

1つ目は、シカの生息地拡大を防ぐ対策についてです。

シカによる獣害被害が最も多い霧島・熊本南部・宮崎北部では、県や市町村、猟友会の協力を得てシカ対策検討会議が実施され、広域移動規制策柵(シカ・ウォール)の設置が検討されました。広域移動規制策柵(シカ・ウォール)とは、徐々に生息地を拡大しているシカがこれ以上生息地を広げないための対策で、現時点でシカが生息していない地域に入る前に柵を設置するというものです。実際にこの対策は、様々な機関との協力を得て実地され、長さ2.5kmにも及ぶ柵を設置することとなりました。

2つ目は、熊本県あさぎり町という中山間地区での獣害被害対策です。

この地域では、かつて作物を全く収穫できないほど深刻だった獣害被害を、専門家の指導と全住民の協力によって撲滅したのです。その結果、放置されていた果樹園の再生や特産品の販路拡大など、農業だけでなく地域全体にも潤いを取り戻した獣害被害対策の成功例とも言える取り組みです。

取り組みの具体的な内容としては、専門家による集落の地理的環境を考慮した最適な侵入防止柵の検討・設置、管理されていない果樹の除去、藪や雑木林の整備などです。専門家による適切な指導を取り入れ、集落全体が一つになって取り組んだことによって被害を撲滅することができたということで、中山間地域集落における獣害対策のモデルとして評価され、平成27年度鳥獣被害対策優良活動表彰では農林水産大臣賞を受賞しています。

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