外来生物ヌートリアによる獣害被害とは？その特徴と対策

水辺に生息する外来生物ヌートリアによる獣害被害の特徴を紹介し、その原因と対策を解説します。

ヌートリアの生態

南米原産のヌートリアは、齧歯目（げっしもく）と呼ばれるネズミの仲間で、第二次世界大戦中に軍服などの毛皮生産の目的で日本に輸入されました。

水中で生活するヌートリアの毛皮は大変良質で保温性が高く、日本だけでなく世界中で毛皮生産のために飼育されていた歴史があります。

日本で記録に残っているヌートリアの記録は、1939年のフランスからの輸入が最初で、150頭ものヌートリアが毛皮用のために日本に連れてこられ、日本各地で飼育されるようになりました。

しかし戦時中から戦後にかけて、飼育されていたヌートリアが野外に逃げ出す、毛皮生産業者が飼育できなくなって野山に放すなど野生化する個体が現れ、現在日本では「外来生物のうち、生態系や人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、または及ぼす恐れのあるもの」として特定外来生物に指定されており、飼育や輸入、譲渡などが規制されています。

• カピバラやビーバーに似ているが、細長い尾とオレンジ色の前歯が特徴。
• 大きさは体長40〜60cm、体重5〜9kg程度（小型〜中型犬ほど）。

• 川や湖の土手に巣穴を掘って暮らす。
• 水草などを積んだ“プラットフォーム”という浮き巣で生活する個体もいる。

• 基本は草食：水生植物、陸上植物、農作物（イネや野菜）など。
• 稀に小魚や貝なども食べることがある。

◆ 性格と注意点

性格は温厚ですが、子育て中の親ヌートリアに近づいたり捕獲のために追い詰めたりすると、身を守るために噛みつくこともあるので、怪我や感染症の可能性も考えてあまり近づかない方が良いでしょう。

◆ 驚異の繁殖力

また、ヌートリアのもう一つの特徴に繁殖力の強さがあります。

ヌートリアは生まれて半年も経たないうちに性成熟し、１回の出産で２〜９頭の子を出産、さらにはその出産を年に２〜３回繰り返すなど大変繁殖力が強い動物です。

そのうえ、日本には原産国の南米にいるようなワニやオオワシなどの外敵がほとんどいないため、繁殖力のままに生息頭数が増えているのです。

ヌートリアは寒さに弱いことから、関東・東海地方より北の北海道や東北への分布は見られておらず、西日本への分布が懸念されておるのじゃ。

ヌートリアによる獣害被害

ヌートリアによる被害は多岐にわたり、農林水産被害、生態系被害、水害被害などがあります。

農林水産被害においては、特に河川近くの田畑における被害が報告されています。

夜行性であるヌートリアは、夕方から夜になると巣穴近くの田畑に向かったり、農業用水路や側溝の中を泳いで移動したりして、水を使った栽培をしている稲の田んぼやレンコン栽培の沼に姿を現します。

ヌートリアによる農作物被害：推移と対策状況

農林水産省の「野生鳥獣による農作物被害状況の推移」によると、ヌートリアによる農作物の被害金額は、平成２７年度は５７００万円、平成２８年度は６５００万円、平成２９年度には５８００万円になっています。

国内のヌートリアによる農作物被害は平成１５年度から２４年度が最も多く、この１０年間は毎年９０００万円から１億円を超える被害金額を出していました。

実際に、平成２９年度と平成１９年度の被害金額を比較すると、１億２４００万円もあったヌートリア被害が１０年後には半分以下の５８００万円まで減少しており、各地域で行われた対策が身を結んで被害が減少傾向にあることが分かります。

その一方で、被害が認知されていないために急速に生息頭数広がっている地域もあり、被害が大きくなる繁殖前の初期段階で捕獲等の対策を行うことが重要になってきます。

生態系への影響：水辺の多様性が危機に

ヌートリアの活動によって、生態系被害では 主に水生生物と水生植物の多様性に影響が出ており、特に以下のような影響が懸念されています。

巣穴による水害リスク：目に見えない脅威

最後に、水害被害にはヌートリアが作る巣穴が関係しています。
ヌートリアは川の土手や田んぼの畦（あぜ）に巣穴を掘って生活します。

彼らが掘る穴は非常に大きく、内部に複数の空間があるため、地盤の強度を著しく低下させる原因になります。

このような空洞がある状態で大雨や地震が発生すると、以下のような深刻な二次被害を招く可能性が高まります。

川の土手や田んぼの畦（あぜ）に巣穴を掘って生活するヌートリアですが、小型犬から中型犬ほどの大きさがある動物が掘る巣穴は、サイズがかなり大きく、入り口は１つでも奥に複数の部屋を作って土手や畔の内部を空洞にしてしまうのです。

ヌートリアに有効な対策

水生哺乳類であるヌートリアへの対策は、捕獲・侵入防止の２つがあります。

捕獲は罠や網によって行われるのですが、ヌートリアには特にアライグマやネコなどの中型哺乳類用の箱罠がよく使われます。

捕獲方法：箱罠と網による対応

昼間に網等での捕獲することも可能ですが、ヌートリアは夜行性のため、生息地が把握できているのであれば個体数が増えてしまう前に捕獲してしまうのが理想です。

捕獲における注意点と手続き

特定外来生物であるヌートリアの捕獲は公的機関への申請や許可が必要になってきますので、地方自治体の指示や制度に従いながら、噛まれる・ひっかかれるなどの被害を受けないよう十分に注意しましょう。

農地への侵入防止策

具体的に農作物への被害が出ている地域では、捕獲以外にも 農地への侵入を防ぐことが必要です。

ただし、ヌートリアは簡単な柵や網等であれば隙間を見つけたり登ったりして乗り越えてしまうこともあるため、ある程度強度のある柵を取り付ける必要があります。

• 柵の設置：強度のある柵を使い、高さは60cmで効果あり、85cmで高い安心感
• 工夫のポイント： - 隙間をなくす - 杭の強度確保  - 台風・豪雨に耐える設計

これらを考慮することで、より侵入効果の高い柵が出来上がるぞ！

また、付近に耕作放棄地や休耕地がある場合は、その土地の除草が有効対策になる場合もあります。

ヌートリアの被害根絶のためには、被害農地の所有者だけでなく、近隣農地所有者や同じ河川の上流地域・下流地域との協力も必要なのです。