獣害被害を減らすため必要な生態調査とは?その種類から具体的な方法までを紹介し、どの程度なら自分たちで行えるのか?どの部分を専門家に頼むべきか?などを詳しく解説します。
生態調査とは?
生態調査とは、動物たちの生息地や食べ物、棲み処、特徴などを把握するための調査で、どのような情報が欲しいか?その情報を何に利用したいか?などの目的によって様々な調査方法があります。
鳥獣被害の分野においては
- 農林水産業被害の被害防止や拡大予防
- 住宅に出没するクマやサルへの対策考案
- 地方自治体や行政の依頼
などで生態調査が行われ、集められたデータは鳥獣対策の様々な場面で活用されています。
生態調査の種類
生態調査には、その動物の行動範囲を調べる「追跡・分布調査」と、その動物の食性や特性を調べる「生息環境調査」の2種類があります。
これら2つの生態調査は、一方が重要でもう一方が不要という事はなく、双方が密接に関わり合っています。

それでは、それぞれの調査の特徴を見ていきましょう!
追跡・分布調査について
追跡・分布調査は、その地に動物が生息しているか否か?を調べたり、生息する動物の行動圏や移動経路を調べたりする際に行う調査で、調査の多くは広範囲・長期間にわたって行われます。
それは、野生動物が季節に応じて山林を移動しながら生活をしていたり、山林の生態バランスの変化で行動を変えたりするからです。
追跡・分布調査の結果を、より正確な判断材料にするためには、数年単位の継続的な情報であることや、比較できる情報にするために調査項目や調査方法を統一することなどが大切です。
追跡・分布調査の方法
発信器やGPS首輪の装着が一般的で、以下の流れで行います。
- まず、対象となる動物を罠や網で一旦捕獲
- 発信器やGPS首輪を付け、再度山林に放つ
- 人間側がそこから送られてくる情報を継続的に受信
- データ化する
追跡・分析調査のデメリット
- 行動範囲が広い動物種の追跡調査は難しいこと
- 異なる発信器を装着した群れ同士が接近すると混信が発生して正確な情報が受信できないこと
- 現在主に使われている受信機は、障害物があれば100メートルの距離で受信可能、障害物がない前提でも、1キロ程しか電波が受信できないこと
このようなデメリットから、電波による調査は継続的なデータを取るためにはこまめな電波受信が必須となり、そのデメリットをカバーするためにドローンや衛星を使用した調査方法もあります。
より正確な判断を下すためには、複数頭への発信器装着が必要となります。
これらの調査は、簡単な方法であれば個人での調査も可能ですが、精度の良いデータを集めたい場合や定期的に調査継続を行う場合は、分析ツールやデータを解析する知識も必要になるため、専門家の知識が必要です。

生息環境調査について
生息環境調査は、その地に住む動物が「どのように環境を利用して生活しているのか?」を知るためのもので、利用環境や行動圏・移動経路を調査します。
生息環境調査の方法
食性調査や画像やビデオによる調査、地図を使った行動分析調査なども含まれ、実際に動物が生息する行動圏内に入って調査する機会が多い事が特徴です。
クマを具体例に出すと、
1. 調査地の設定と安全対策
- クマが生息している地域を調査対象として選定する。
- クマと遭遇しないように、安全対策(鈴をつける、複数人で行動するなど)を講じる。
2. 痕跡の探索と分析
- 糞や食痕(食べ残し、かじった跡など)を探す。
- 足跡からクマの年齢や頭数を推測する。
- 発見した糞を研究機関に持ち帰り、植物性・動物性の分類や内容物の計測を行う。
3. データの活用
- クマがその時期に何をどれくらい食べているかを分析し、生態を把握する。
- 季節や植生の変化によるクマの行動を予測し、獣害対策の精度を高める。
- 人里への出没予測や個体数の増減を把握し、適切な対応を検討する。
このような調査を行うことで、クマの生態を理解し、人との共存のための対策を考えることができます。
また、追跡・分布調査の結果と照らし合わせることで、より短期でリアルタイムな情報を得ることが出来ます。
その他にも、イノシシやシカによる農業被害に悩まされている地域では、センサーカメラや足跡調査などによって移動経路を明確にし、山林から田畑に移動する、その移動経路を柵や側溝でふさぐことで被害を減らすということも行われています。
ココに注意
調査地が自分の私有地であれば個人の調査も可能ですが、知識の少ない人の入山や調査は危険を伴う可能性もあり、糞の調査などは感染症や寄生虫の可能性もあります。
できる限り専門家のアドバイスを得て調査への動向をお願いするなどした方が良いでしょう。